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Cyber U.S.A + 1998年3月
SOHOの理想と現実 |
気がつけば、仕事をするのはほとんど家で、という状態になっていた。SOHO(Small Office & Home Office)という言葉が流行る前は、言葉自体を知らなかったから意識はせず、流行ってからは「ライターは家で働くもの」と思っていたので、自分がSOHOという流行りの枠に括られてしまうのが何となくイヤだった。しかし昨年、女性誌のSOHO関連特集で「SOHOなら好きなところに住める」という例で紹介されて、ほかの記事を読んでみると、SOHO実現のポイント、ノウハウ、悩みなど、ほとんどの記事に同感できて、自分は立派な(?)SOHOという自覚を持ってしまった。
最近のSOHOブームの原因はコンピュータとインターネットの普及にあるわけで、自分の場合もこれらがなかったら、海外にいて日本と仕事をすることは難しかっただろうし、できたとしてもコストも手間も数倍かかると思う。仕事発注側も海外に住んでいる知らないライターのホームページを見て原稿依頼、なんてことができるのはインターネットならではだ。
家で働いていると、昼間の時間も自由に使えるのがメリットだが、もちろんデメリットもたくさんある。
時間は自由になるけれど、気を抜くと際限なく怠けてしまったり、反対に深夜や週末に仕事をしていたりと、仕事と私生活の境目があいまいになって、いつもだらだらと仕事をしているような生活パターンになってしまう。
家だと、ちょっと分からないことがあっても隣りの席の人に聞くということができないし(だからオン&オフラインのネットワークが重要になってくる)、コンピュータや周辺機器は全部自分で揃えなくてはいけないし…と、会社に新しいソフトを買ってもらえて、インターネットの専用線がある会社勤めの人が、時々うらやましくなってしまう。
メリル・リンチの理想的なテレコミューティングの実験
先日のニューヨーク・タイムズ紙に、証券会社メリル・リンチが、理想的なテレコミューティングの実験に取り組んでいる記事が載っていた。
この場合のテレコミューティングは、社員が会社に通わずに家で働くという意味なので、自営業&フリーランス色が強いSOHOとはちょっとニュアンスが違うが、家で働くということには変わりがない。
メリル・リンチの“テレコミューティング・シミュレーション・ラボ”は、「メリル・リンチ方式(Merrill Lynch Way)」な、最先端のテレコミューティング方法を指南するべく、実験を行っており、これが「うらやましい」の一言。
「従来の方法(Old Way)」とメリル・リンチ方式で比較した「テレコミューター(在宅勤務)になるには」という一覧表を見てみよう。
家で仕事をはじめるにあたって、「会社の倉庫からラップトップ・コンピュータを失敬してくる」のが従来なのに対し、メリル・リンチでは「ラボで2週間のインストラクションを受ける」ことからはじまる。
家で仕事をする環境も、従来は「リクライニングのくつろぎ用チェアを、玄関脇の仕事スペースに持ってくる。コンピュータのスクリーンに余計な光が映らないように新聞のスポーツ欄を適所に貼る(これは半分冗談か)」といったなさけなさに対して、メリル・リンチでは「会社承認のエルゴノミック・デザインの机といすと照明器具を支給」と、仕事環境に気を配っている。また、今までのオフィスと同じ番号で電話を受けられるように、家に新しい電話回線を用意してくれたり、コンピュータのテクニカル・サポートも24時間体勢で受けられる。
時間の管理は「数分外出した所在まで、あいまいな記憶から答えなければいけない」従来の細かくチェックを入れる方法に対して、「毎週書面で仕事の開始と終了時間、ランチタイムとEメールをチェックした時間を特定」するだけでよいのが、自由なメリル・リンチ。
人間関係のフォローアップでは「オフィスのクリスマスパーティでボスがあなたの顔を覚えていなくて恥をかく」ような従来の孤立感を防ぐために、「グループ・ミーティングや定期的にオフィスに顔を出すことが要求される」。
これまでメリル・リンチには500人のテレコミューターがいるが、その割合は全社員の1パーセントに過ぎず、ほとんどはテクニカル職である。
この社員に至れり尽くせりなテレコミューティングの実験の最大のベネフィットは、待遇面のアピールができること。雇用主を自ら選ぶようなコンピュータ・スペシャリストなど、優秀な人材を確保することができる。
ちなみに家で働くための理由として、通勤時間を削減して家族と一緒にいる時間を増やしたい、というのはOKだが、2歳の子どもの世話を仕事中にしたいというのはダメなのだそうだ。
とまあ、フリーで家で働く者にとってはうらやましい話ではあるけれど、やはり現実はまだまだ「従来」かも知れない。家で働く母親が、子どもたちを朝、学校に送りだした後に、キッチン脇のデスクのコンピュータで会社とビデオ会議…という状況で、パジャマとガウンをまだ着ていて「あら、どうしましょう!」という某テレビCMがあるのだが、これがけっこう身につまされる。
今月の近況●いまごろサンフランシスコでカニを食べているはずなのに…と、くやしがりながら、異常な暖かさが数日続いているニューヨークで原稿を書いている。